Kamaseinu

home sweet home

霞央

かすみくんが3年生になって、ちょっとだけふたりの時間が減った。
オレの仕事も少しずつ増えてきたから、門限ギリギリに寮に帰ってきては急いでお風呂に入って寝る、それだけ!みたいな日も週に何回かあって、忙しいな〜とばくぜんと思うようにもなってきた。でも、声の仕事も舞台の仕事も授業も部活もそれ以外も、ユニットの活動だって全部楽しいし、忙しくてももうやだ〜とはならないし。体力には誰よりも自信があるオレは、もちろん疲れてなんかもいない。だけど、やっぱり息抜きも大事じゃん?だからふたりで出かけるって約束してた今日が、オレはすごく、ものすごーく楽しみだったのに、

「こちらのお部屋はいかがでしょう?日当たりもいいですし、駅まで5分ほどですし。」
「確かにあったかいですね。あ、ここロフトですか?央太のぼってみるか?」
「別にいい…。」
「なにむくれてんだよ。」

なのに、なんでかすみくんのおうち探しにつきあわなきゃいけないんですか!


「…別になんでもいいんじゃないの。」
「なんでもよくはないだろ!」

不動産屋のおにいさんがかすみくんの後ろで少しだけ困ったように笑ってる。この不動産屋さんは宝石ヶ丘学園卒業生御用達らしいけどオレにはそんなことしったこっちゃありません!誰かがいてもいなくても、怒ったオレは機嫌がいいフリなんかしてあげないのです。

ー…かすみくんが卒業したらひとり暮らしをするっていうのは知ってた。おうちには帰らないってことも、実はしっかり貯金をしてひとり暮らしの資金をためてたことも。かすみくんとミヤくんのお部屋の片隅に不動産屋さんからもらってきたパンフレットが置いてあるのも見えてた。でもそれをしっかり見てしまうと、あと数ヶ月でミヤくんとりんくんとかすみくんがいなくなっちゃうってことを思い出すので『そうなんだ。』より先を考えないようにしようって自分の中で決めてた。オレはHot-Bloodの中では最初から一人だけ中学生だったけど、高等部の校舎に来ればみんながニコニコして仲間にいれてくれたから、それが嬉しいってことしかわかってなかった。だかられんくんの卒業式、笑ってお祝いしようとおもってたのにわんわん泣いてしまって、あおやぎ先輩に大爆笑されて自分でもびっくりした。れんくんは後ろに宇宙の画像がある猫みたいな顔をしていて、見開いた目がこぼれおちそうだった。そんなおもしろいれんくんの顔を、オレははじめてみたのにオレの目からこぼれる涙は止まらなくて、ミヤくんが綺麗な柄のハンカチを貸してくれて、りんくんが背中をなでてくれて、かすみくんは少し嬉しそうな顔してオレを見てて、れんくんは優しく頭をなでてくれた。れんくんが『オータがそんなに泣くなんて思わなかった。少し嬉しいな。』なんて言うからオレはもっと泣いた。オレが泣いたららんまも、ななおも、ミーちゃんも泣いちゃって(ミーちゃんとらんまは式のときから危なかった)次の日寮であったとき全員の目がぼがーんと腫れてておもしろかった。お仕事でれんくんには会えるって頭ではわかってたし、れんくんに遊ぼうって言ったらきっといつでも遊んでくれるのはわかってたのに、本当に明日からここにはれんくんがいないんだっていうのが、あまりにもオレにとって大きい事実だったんだと思う。こんなに悲しいこと、まだオレの身にも起こるんだって、ぼがーんと腫れた目を冷やしながらオレは、あの日かすみくんがいなくなってしまった日のことを思い出していた。あの時、オレは泣かなかったけど、なぜかあの時のことを思い出していた。

れんくんの卒業式でわんわん泣いたオレのために、きっとかすみくんは今日ここにオレを連れてきたのだろう。『俺ももうすぐ卒業しちゃうんだからな。』ってオレに理解させようとしてるのだ。寂しいの予行練習でもさせたいんだ。かすみくんに関しては、オレはそんな練習とっくに済んでるのに。

「こっちの部屋すぐ裏に線路あるけど逆にいいかもな。一応防音らしいけど練習の声とかも電車がかき消してくれそう。」
「宝石ヶ丘学園の生徒さんらしいですね〜。」
「央太が騒いでも平気かもしんないぞ。」
「オレ関係ないし。」

これはオレのご機嫌をとるときのかすみくんの声。『泊まりに来てもいいんだぞ。』って意味で言ってるんだろうけど、かすみくんちに泊まるからって理由で外泊申請なんてしたくないし。あの時は戻ってこないって言っていなくなっちゃったくせに。今更とりつくろっても遅いんですけど。ていうかすすんで出て行くのと、卒業して学園を去るのはそもそも違うし?もしかして自分が卒業するときも、れんくんのときみたくオレにわんわん泣いてもらえるとか思ってるんですかー?じいしきかじょーではー?
…あーあ、せっかくのお出かけなのに本当につまんないのです。

「防音といえば駅の反対側になりますが、ここより少し広めのお部屋がありますよ。行ってみます?」

まだ見るつもりなのかなあ。おもしろくないなあ。オレもう帰っちゃおうかなあ。

「あ、お願いします。央太いくぞ。」
「え〜?オレも行くの?もう疲れちゃったよぉ。」
「お前、さっき飯食ったばっかだろ。もう腹減っちゃったのか?」
「おなかはすいてないけどさあ、」

かすみくんのばか。ばかばかばーか。オレが不機嫌なの、お腹がすいてるときだけだとおもってる。もうやだ。つまんない。帰る。遊んで帰る。なんかたべてからかーえる!

「じゃあもう少し頑張ってくれよ。お前も一緒に住む家なんだから。」
「…………はあ?」

かすみくんがおかしくなっちゃた。

「はあ、ってなんだよ。」
「い、意味わかんない。一緒に住むってなに?」
「…一緒に住むは、一緒に住む、でしょ。」
「はあ?」
「お前口悪くなったよな。ミヤの影響か?」

オレ、夢でもみてる?
いっ、一緒に住むってなに?誰と誰が?
今おかしいのってかすみくんとオレとどっち?

「俺と央太が、一緒に、二人で、住むの。ダメ?」

先輩たちの中にも卒業したあと同居してる人たちがいるっていうのは聞いたことある。色々節約になるからって。
でも、かすみくんは貯金もしてるし、ちゃんと稼いでるし、おうちは大金持ちだし、お父さんは社長だし、それに、それに

「…俺、まだ2年生だし…、」
「うん、だから先に俺が住んで待ってるから。」
「そんなの今はじめて聞いたし…、」

心臓がばくばく言ってる。騙されちゃだめだ。オレはすぐかすみくんのこと甘やかしちゃうから、許しちゃうから。何を言われても鉄の心を守らねば。

「なんだ。俺の椅子あっためて待っててくれた央太なら、即答してくれると思ったのに。」
「それオレの黒歴史だからやめて!」
「黒歴史なの?」

なにそれなにそれ意味わかんない。なに笑ってんの?ちゃんとわかるように言ってくれなきゃやだ。かすみくんっていつもそう。回りくどいんだよ、モブのくせに。嘘ばっかつくし、ほんとのこと言ってくれないし。その場限りでオレが喜ぶことばっかり言うし。全部おわってから全部きめてから、オレはいつも結果報告をきかされてばっかしで。実はこうでした、って。オレが許しちゃうから。かすみくんのこと。オレの顔色ばっかりみて、オレのご機嫌ばっかりとって、かすみくんなんか、かすみくんなんか

「一緒に住もうよ、央太。」
「……住む。」

大好きだもん。ちょーうれしいのなんか、当たり前じゃんね。

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