かませいぬ!
「リーダー、お願いがあるんだけど」
「何だ」
「今日一日俺とギアッチョに休みを頂戴」
「ハァ?!」
「…」
*
それは2月の寒い日の事
俺の叫びを無視して奴はにこにこと笑いながらリーダーの机に顎を乗せた。書類整理の邪魔をしつつメローネは憮然と話し続ける。
「良いだろ、だって俺今週入ってからもう3人も殺ってるんだぜ」
「別に多くねぇじゃねーか」
一度に3人の時だって決して稀な事じゃない。リーダーやプロシュートの奴なんかはもっと頻繁に任務に赴いている筈だ。
「俺のスタンドは手間が掛かるんだもーん。ねぇ良いでしょリーダー、俺育児ノイローゼになっちゃう」
「駄目に決まってんだろーが!つーか何で俺も一緒になんだよ、クソッ!!俺は別に休暇なんて…」
「…良いぞ」
俺の言葉を遮る様にリーダーは間髪を入れず言い放つ。息を吐いてコーヒーを手に取り飲み干してから俺達を見た。
「やったぁ!リーダー愛してるぜ!」
「ちょ…リーダー?!」
こんな横暴な休暇願いに二人分もあっさり許可を下ろし 再び視線は書類に戻して、リーダーは作業を再開した。
「ただし夕刻までだ」
「はーい」
「おい良いのかよリーダーよぉ…テメーばっかり忙しそうじゃねーか。俺、書類手伝うぜ」
リーダーは薄らと微笑んだ後、首をゆるゆると横に振る。
子供に向ける笑顔の様でほんの少し腹を立ったが、それでも俺は傍らに積まれた書類の山が気がかりだった。
始末書こそ無いにしろそれは俺達の分の報告書纏めだ。誰より忙しく働いているのにその上デスクワークじゃ疲れも癒えない。
「いや…構わない。実は昨日からプロシュートの奴が手伝ってくれていてな」
タイミング良く書類の束を片手に金髪男が入室した。
邪魔だと言わんばかりにプロシュートがメローネを押しのけて書類を片す。
「こちらは気にせず今日は存分にメローネに付き合ってやれ、ギアッチョ」
「…」
リーダーのメンバー思いな所は今に始まった事では無かった。
優しさ、労わり、慈しみ。
俺は溜息をついて手伝いもせず書類を眺めるメローネに待ってろ、と声を掛ける。
せめて新しくコーヒーを淹れてリーダーに手渡してから出掛けよう。
自分のマフラーを片手に下げて台所へと向かう。リーダーに命令形で言われたら、俺は言い返す事が出来ないから。
*
外へ出掛けると言うメローネの言葉からてっきり俺の車で行くとばかり思っていたが
奴から投げて渡されたのは車のキーでは無く俺の分のヘルメットだった。
「後ろに乗りなよ」
奴の台詞と上手く重なってついつい言葉を飲み込んでしまう。色々と言いたい事なんてものが山程あった筈なのだが。
「…クソッ」
悪態を吐きながらバイクに跨がってエンジンの音に耳を澄ました。
掴まってて、という声をその場に落とすと 奴はアクセルを振り絞った。
風に煽られた金色の髪がヘルメットの視界をはらはらと遮る。靡くと言うより舞う様なそれは邪魔ではあったが不快では無かった。
瞳を閉じると冷気と共に奴のシャンプーの匂いが掠めた。いや、きっとこれはフレグランスだ。多分安めの女物。
誰かから貰ったものなのだろうか。こいつの休日を俺は知らない。
「あ、そうだギアッチョ、これ。えーと…多分右のポケット」
「あ?そういうのは出発する前に出せよ」
誰かの口癖では無いがしょうがねー奴だと呆れながらメローネのポケットを探った。
調子に乗っていかがわしい声を上げる変態の後頭部は派手に殴っておく。
取り出したのは長細くて割と厚みのある赤色の箱。金のリボンが掛かっているそれはプレゼント用を思わせる包装だった。
「あんたに。世界が輝いて見える眼鏡だよ」
そんな眼鏡があってたまるか。戯言は受け流し箱を弄ぶ。
それにしても視力なんて教えた覚えは無かった筈だが。こいつは時々何でも知っていてその度訝しくて仕方が無い。
「今掛けている眼鏡だって、この通りまだ壊れちゃあいないんだがな」
呟く俺を一瞬振り返って平然と奴は言葉を続ける。
「いくつあっても困らないだろ。ポリシーとか無ければ使ってよ」
俺はその何の変徹も無い眼鏡を箱からごそごそと取り出した。
赤い縁取りに丈夫そうなフレーム。現在の眼鏡より幾らか軽く
確かに拘りは無かったものの、それでもこれが高価なものなのだという事は俺にでも何となく分かった。
だからこそ少し遠慮を感じたが返した所でこいつは捨てちまうだろう。
真新しいレンズは冬の寒さを遮る様に頼り無く俺の目前に控えた。
「…あー…よく見えるぜ」
「そうかよ」
「…Grazie.」
見える世界は変わらない。そんなの当たり前だった。
だけど大切にしてやっても良い。
今回だけだ。
今回きりだ。
2月14日、木曜日。Festa degli innamorati
日付が変わったらいつも通りだ。これは使い続けてやるけれど。
真冬の海沿いのカーブを緩やかに曲がる度風が体を冷やす。
素手で空箱を掴む指先が段々と冷たくなって来るのを感じ、冷気には耐性がある筈なのに嫌に寒さが身に染みた。
俺は自分のマフラーを外して前方の首をそれで絞める。
「ぐっ…は、あっは。ありがとー」
「フン、さみーんだよ見た目がよォ」
髪と一緒に漂うマフラー
眼鏡を通して最初に見たのはテメーの後ろ姿だった。金髪と寒そうな背中だけが色褪せた世界で輝いていた。
この男が今どんな顔をしているかなんて 俺は絶対に知りたくは無い。
そう言えば行き先も告げられていなかったが聞こうとした途端に興味は失せた。
その気になれば世界の果てにだってきっと行けるのだろうと思う。
それが夕刻までに帰れる場所に、あればの話だが。
collarsのえなさんにいただきましたv
こんな素敵な小説をフリーにするえなさんに感服です…!ひえええ!
私ほんとえなさんのかかれるメローネ大好きなんですが、
今回は本当にやばいですね…!なんでこんな格好いいの!ずるい!(…)
素直なギアッチョも可愛くて愛しくて大好きですv
ていうかえなさんのかかれる暗チみんなほんとに理想通りすぎてたまらないです…!
本当にありがとうございましたーvv
2008.02.26